IKKON STYLE

鈴木酒造店長井蔵鈴木大介さん

2018.06.25

鈴木酒造店長井蔵、鈴木大介社長に聞く、IKKONの楽しみ方 第1回

今回のIKKON styleは、酒蔵の視点からIKKONについて、そして日本酒について語っていただきます。

 

ご登場いただくのは、鈴木酒造店長井蔵の代表取締役であり、自ら杜氏として日本酒を醸す鈴木大介さん。奥が深い日本酒と器のお話を3回にわたってお送りします。どうぞお楽しみに!

 

 

 

 

―二重焼きを生かし、中の形状が違う3種類のIKKONぐいのみを開発するにあたり、鈴木社長には試作段階からご意見を伺うなど、ご協力をいただいてきました。あらためてIKKONをご覧になっていかがですか?

 

面白いことを考えるなと思いましたね(笑)。お酒の味は器の形によって確かに変わります。でも、これは外見からは中の形が分かりませんから、視覚から来る先入観なしに味わいの違いを楽しむことができる。そんな発想が面白いと思いました。

 

 

―器の形とお酒の味の関係に、なにか原則のようなものはあるのですか?

 

ありますよ。味を感じる味蕾(みらい)細胞は舌の真ん中あたりに並んでいて、そこにどうやって酒が入っていくかによって、味わいが変わります。つまり、酒器の形状でそのボリュームやスピードなどが違ってくるわけです。また、口にあたる部分の厚みによっても、舌に入ってくる速さが異なります。

 

 

―なるほど。香りと器も関係しますか?

 

そうですね。香りを楽しむ場合は一般的に少しすぼんだ形がよく、逆に香りが低いものはラウンド型や口が開いている形のほうがいいとされます。

 

 

 

 

―さて、IKKONはラウンド、ナロー、ストレートと3種の形がありますが、それぞれお酒のタイプとの相性はどうでしょう。

 

ラウンドタイプは、オールラウンドな日本酒に合いますね。なかでも若干味が濃いものや、ちょっと温めて飲むタイプがよく合うと思います。
ナロータイプは、これがけっこう難しい(笑)。通常、この形だと手の熱が伝わって温度が変わるので、香りを楽しむお酒が合うのですが、IKKONは二重焼きなので熱が伝わりにくく、長時間温度が変化しません。ですので、どちらかといえば、香りがあるものよりも軽快で繊細な、リズムのあるお酒がいいかもしれません。
ストレートタイプは、そういう繊細なお酒もイケますが、もっとどっしりしたタイプも合います。

 

 

―では、ご自身はどんな日本酒をどんな酒器で飲むのがお好きですか?

 

オールラウンドな酒が好きです。うちで作っているのは純米酒がこれに当たります。冷でも常温でもお燗でもおいしい。いろんな料理に合わせられる優しいお酒です。シンプルな煮物をはじめ、味の濃いものにも合いますし、洋食もいける。意外とチーズにも合うんですよ。
酒器はいろいろですね。友人の陶芸家が作った白磁の猪口をはじめ、陶器、ガラスなど違う種類を楽しんでいます。でも、飲んでいていちばん楽なのは盃(さかずき)なんですよ。手首を返すだけで飲めるから。

 

 

―盃というと、かなり小さくて平たいですね。

 

そう、あれは日本人にいちばん合っている器です。普通の猪口は大体60mlくらい入りますが、盃は30mlくらい。アルコールに強くない日本人が飲みすぎないサイズ、というのもありますが、小さな盃に「注ぎつ注がれつ」こそが日本酒の文化でしょう。また、酒は料理と合わせて楽しむものですから、頭を倒さず手首の返しだけで飲める盃は、目で料理を見ながら酒を味わうことができるのです。ジョッキを傾けたとき天井が高いと気持ちいい、というビールとは全く違います(笑)。

 

 

 

 

―なるほど。IKKONもぜひ次は盃を開発しましょう(笑)。ちなみに、お仕事で利き酒をするときはどんな器でどんな飲み方をするのですか?

 

ストンとした形の「利き猪口」を使います。居酒屋にもよく底に青い円(蛇の目)の描かれた白い猪口がありますが、本物は「本利き」といって、あれをもっと薄く大きくしたものです。私たちが出来たお酒の味をみるときは、その本利きから「吸って飲む」というやり方をします。味わうというより、どちらかといえば欠点を発見するような飲み方ですね。吸って飲むと一定量を口に運ぶことができます。自分の場合は5mlと決まっていて、それより多くても少なくても味が変わってきてしまうのです。

 

 

―ものすごく繊細な世界ですね。ちなみに、大学では味覚の勉強をしていらしたとか。

 

東京農大の醸造学科の卒論で、日本酒に香気成分などを添加して味がどう変わるかという研究をしていました。ある香りの成分を加えることで、甘味が増えるか、酸味が増えるか、渋みや苦みはどうか、と調べるわけです。もし甘みが出るならその成分がいい影響を与えているので、その香りを出す微生物を探すとか、その香りを生成する酵母の生理条件を調べるとか。そういう基礎研究でした。

 

 

 

 

鈴木酒造店

IKKONが採用する二重焼きは、福島県浪江町の伝統的工芸品、大堀相馬焼の特徴でもあります。同じ浪江町の請戸(うけど)地区にあった鈴木酒造店(本蔵)は、東日本大震災の津波で全建屋が流出し、続く原発事故で休業を余儀なくされました。鈴木さん一家は山形県長井市に移り、現地で長い歴史を持つ東洋酒造の全株式を取得、2011年12月より「鈴木酒造店長井蔵」と名称を変更して酒造りを再開しました。永らく浪江町で愛されてきた「磐城壽」、そして東洋酒造から引き継いだ「一生幸福」を主要銘柄としています。

 

HP:http://www.iw-kotobuki.co.jp/