IKKON STYLE

「燗酒ノ城」店主前田洋志さん

2019.10.11

「燗酒ノ城」店主、前田洋志氏に聞く IKKONで楽しむ燗酒の世界(第1回)

今回のIKKON Styleは、燗酒について。温めてこそ引き出される日本酒の奥の深さを、全国から燗酒ファンが訪れる福島市の居酒屋、その名も「燗酒ノ城」店主の前田洋志氏に語っていただきます。IKKON SAKE WARMER(陶製の卓上酒燗器)とともに味わう燗酒の世界。どうぞご一緒に。


「燗酒ノ城」店主 前田洋志さん

徳島県生まれ。子供のころから身近に日本酒がある環境で育つ。一度は企業に就職するも、日本酒好きが高じて酒造りの世界へ。京都や鳥取、三重、東京などで通算10年ほど蔵人としての道を歩む中で、あらためて燗酒のすばらしさに開眼。その後、作り手ではなく売り手として日本酒業界に貢献できる道を選び、長年の夢だった自分の店を持つことに。2016年9月、奥様のご実家のある福島県福島市にて「燗酒ノ城」を開業。


 

 

お燗のほうが二日酔いしない!

 

――前田さんは、ご自身のお店を通じて燗酒の良さを広めたいとお考えだそうですが、そもそもお燗をおすすめする理由は何でしょう。

 

と燗と一概にどちらが良いというわけではありません。お酒によって、例えば精米歩合の低い大吟醸のようなお酒なら、冷でおいしくいただけるでしょう。でも、大吟醸って毎日飲むものではありませんよね。そこまでコメを磨いていない純米酒なら、温めた方が確実においしいと思います。夏でも皆さん、ご飯は温かくして食べるでしょう。それと同じで、お酒も温めた方がコメ本来のいろいろな味を楽しむことができるのです。

また一般に、冷たいものより温かいもののほうが身体に良いと言われています。身体が冷えると温めるのにエネルギーを消耗するという理由もありますが、悪酔いしないという意味でも、燗酒の方が確実に身体は楽ですよ。

 

――そうなんですか。なんとなく燗酒の方が二日酔いになりそうなイメージがありますが。

むしろ逆です。胃に入ったアルコールは肝臓に送られて分解されますが、35度以上でないと血流に乗りません。だから冷酒は最初のうち酔わないんです。胃の中でやっと体温くらいに温まったころには、もう数杯飲んでいる。そこでいっぺんに血流に乗って送り出されると、肝臓は処理しきれません。分解しきれなかったものが血管中に戻って、二日酔いという状態になるわけです。

一方、燗酒は飲んだらすぐに血流に乗るので、酔うのは早い。でも肝臓の方は少しずつ仕事をすればいいので楽なのです。もっとも、質の悪いお酒は燗でも身体が疲れます。醸造用アルコールのほか糖類、酸味料などが入っているお酒はなるべく避けたいですね。

もうひとつ、大切なのはチェイサーです。お酒の分解には水が必要ですから、お酒と同量か倍量の水を飲んでください。それも氷の入った冷水ではなく、40~43度くらいの白湯がいいですね。必ず翌日はすっきりしますよ。

 

――なるほど。でも、福島ではあまり燗酒は飲まれないように思いますが。

最初に福島に来たとき、お燗の文化がないのでびっくりしました。こちらはいわゆる「もっきり」スタイルで、皆さん冷たいお酒をがんがんコップで飲むんですね。これは東北全般に言えるようです。寒い地方なのに何故?と思いましたが、やはりここで作られるお酒の特徴と料理との相性だろうと。

たとえば会津地方では、保存のため塩漬けを多用するので、味が濃くてしょっぱい食べ物が多い。そうなると、酒は確実に甘い方が合うのです。ただ、それを温めると甘味が全面に出て、溶けたアイスクリームみたいになっちゃう。だから皆さん冷なんですね。福島のお酒は全般に甘味が多く酸味が少ないので、実はお燗向きではないんです。だから、うちの店に置いている酒もほとんどが関東以西のものです。福島の方にもぜひ、いつもと違う銘柄で燗酒の良さを知ってほしいですね。

 

――つまり、西の方のお酒は甘くない。そういうお酒が燗に向いているということですね。

西日本では、伝統的に酸の高い酒が多いですね。それは麹の違いです。気温が高いので、もろみになったとき酸が出やすい。それに対して東北は麹がさらっと軽いので、お酒があまり太くならないんです。そして、食べ物について言えば、西は(醤油よりも)出汁の文化です。全体に薄味で、酢で締めたものや、柑橘類が豊富なので酸っぱいものが多いですね。だから、甘い酒よりも酸の多い酒が合うわけです。

基本的には温度を上げると酒はキレる、つまり酸味が際立つようになります。ですから、キレを左右するのは酸味と残糖とのバランスです。酒造りの過程でコメのでんぷんを麹がブドウ糖に変えますが、これがアルコールへと発酵した後、糖分がどれくらい残っているかによって酸味とのバランスが決まるのです。

(つづく)


[聞き手=松永武士、文・写真=中川雅美]